注射嫌いの人に朗報だ。いずれ医者が「まったくチクっとしませんよ」と言う日が来るかもしれない。最新の研究によると、人間の毛髪の1000分の1の細さしかないナノレベルの新しい注射針が開発された。金メッキが施されたこのナノ注射針により、薬剤成分の微粒子を各細胞内の小器官にピンポイントで送達することが可能になるという。
薬物療法においてもっとも重要で難しいのは、対象となる細胞やその内部小器官(オルガネラ)だけが、血液中に放出された薬剤成分に対して適切に吸収・作用するよう、薬を投与することである。
新しく開発されたナノ注射針では、対象の細胞小器官に薬剤成分を直接“注入”するため、この問題が回避できると期待されている。
研究チームの一員でアメリカにあるイリノイ大学の分子生物学者、ユ・ミンフェン氏は次のように話す。「微量の薬剤成分を正確に細胞に送り届ける強力なツールが手に入った。まず問題の細胞組織を一度体内から摘出し、ナノ注射針で注射を行った後、再び体内に収める。この方法により、病状に応じた適切な経過観察・診断・処方を行うことができる」。
ナノレベルの注射針という発想は決して新しいものではない。過去数十年にわたり、何人もの専門家が極小の注射器による細胞への直接注射を実現しようと試みてきた。しかし、これまでの注射針はまだまだ作りが粗く、注射の際に細胞に損傷を与えてしまっていた。
そこでユ氏の研究チームは、薬剤を噴出してしまう注射筒ではなく、空洞のない高強度の注射針を設計した。通常の注射器とは異なり、ナノ注射針は空洞を必要としない。この方式を採用したことにより、直径50ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)という“細胞に優しい”医療器具の開発に成功したのである。従来のナノ注射器が数百ナノメートルの直径であったことを考えれば、今回の技術の革新性が伝わるだろう。
注射筒を使わない最新ナノ注射針では、薬剤成分の微粒子は、連結用粒子の働きにより金でできた針の薄い外層に添加される。そして針が細胞小器官に入り込むと、薬剤粒子が解き放たれる。
細胞よりも小さい内部小器官を“狙い撃ち”にするとなると、途方もない精度の射撃技術が必要に聞こえるかもしれない。たしかに現在のところ、ナノ注射針を使いこなせるのは、高性能顕微鏡を巧みに操る技術者だけだ。
細胞内注射という新しい概念。成功すれば結構色々出来そうです。
しかし注射は痛いもの、という時代はまだまだ続きそうです。
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