慶應義塾大学先端生命科学研究所の平山明由研究員、曽我朋義教授らと国立がんセンター東病院(千葉県柏市)の江角浩安病院長らの研究グループは、メタボローム解析によりがん細胞が自身の増殖に必要なエネルギーを作り出す際に、回虫などの寄生虫が低酸素環境下で用いる特殊な代謝か、又はそれに類似した代謝を用いる可能性があることを世界で初めて実証しました。これは、平成20年度に国が「先端医療開発特区」として創設したスーパー特区(がん医薬品・医療機器早期臨床開発プロジェクト)に選定された国立がんセンター東病院、慶大先端生命研の共同研究の成果です。
ほとんどの生物は酸素が十分にある環境では、クエン酸回路と呼ばれる代謝を使ってエネルギー物質であるATPを生産します。寄生虫として知られる回虫も、酸素の多いところで成長する幼虫の間や、体外にいる間は酸素を呼吸し、ヒトと同じクエン酸回路を使ってエネルギーを生産します。
しかし、ひとたび酸素の乏しい小腸内に進入すると今度は特殊な代謝を使ってエネルギーを生産するようになります。ある種の虫下し薬は、回虫が使っているこの特殊な代謝を選択的に阻害するためヒトには副作用がなく、回虫のみを死滅させる事ができます。 国立がんセンター東病院の江角浩安病院長らは、虫下し薬が悪性のがん細胞も死滅させることを2004年に発見しました。この研究成果を元に、がん細胞は血管がなく酸素が乏しい環境でも活発に増殖することができる事から、がん細胞も回虫と似た特殊な代謝を使ってエネルギーを生産するのではないかという仮説を立て、世界最先端のメタボローム解析技術を持つ慶大先端生命研と、がんの代謝を解明するための共同研究を2004年より開始しました。
研究チームは、国立がんセンター東病院で大腸がん患者と胃がん患者からがん組織と正常組織を採取し、慶大先端生命研でそれらの組織のメタボロームを網羅的に測定し、がんと正常組織の代謝物の違いを比較しました。その結果、低酸素の環境下でコハク酸を高濃度に蓄積するという回虫が示す現象ががんの組織でも起きていることが明らかになりました。このコハク酸の蓄積は回虫が特殊な代謝を使ったときにのみ観察され、がんもこの代謝を用いていることを強く支持する結果でした。
また、酸素濃度の低い大腸がんの方が、胃がんよりもより多くのコハク酸を蓄積していることが判明しました。 虫下し薬でがん細胞が死滅すること、がん組織と回虫のエネルギーを生産する代謝のパターンが似通っていることから、がん細胞は、回虫などの寄生虫が酸素の乏しい環境下で使用する特殊な代謝、あるいはそれに似通った代謝を使って増殖に必要なエネルギーを生産している可能性を今回の実験で示しました。
思わぬところに治療法が転がっているものです。それを見つけ出して実証した慶応大学に拍手を送りたい。
久々にアレです、目の付け所がシャープだと思いました。
関連
医学処:寄生虫治療薬ニタゾキサニドがC型肝炎にも効く。
医学処:昆虫は毒草を食べて寄生虫を自己駆除する。
がんセンターの院長先生が、2003年に特許を申請していますね。
「本発明の有効成分であるピルビニウムパモエートは、既に、
駆虫剤として人体に投与されているものであり、
抗癌剤及び抗癌用薬理組成物として、
生体投与に際して安全な成分である。」
という所が嬉しいです。
http://www.j-tokkyo.com/2004/A61K/JP2004-189712.shtml
「寄生虫 癌|がん|ガン」で検索してみたら、数年前に
「ハーブでガンの完全治癒」という、癌の原因は寄生虫だと言う
書籍が出版されていました。
駆虫用のハーブで寄生虫を駆除したら癌は治るという内容でしたが、
虫下しで癌が治る(かもしれない)という要点は同じですね。