長期にわたって記憶が維持されるのは、特定のシナプスだけが記憶関連タンパクを受け入れる目印が働くためという仮説を、三菱化学生命科学研究所のチームがラットを使った研究で実証した。
シナプスは神経細胞同士が接近した部位で、神経細胞同士の情報伝達がここで行われる。研究チームが実証した仮説は「シナプスタグ仮説」と呼ばれているが、実際にタグ(目印)があるかを含め、これまで確かめられてはいなかった。
井ノ口馨・三菱化学生命科学研究所グループリーダーらは、既に知られている記憶関連タンパクに蛍光を発するタンパクを結合させ、ラットに長期記憶が生じる状況を作った際、このタンパクが神経細胞の中でどのような動きをするか観察した。この結果、記憶関連タンパクは神経細胞の樹状突起を通り神経細胞内に満遍なく運ばれるものの、長期記憶に対応するシナプスにだけ取り込まれることが確認できた。受け手側となる樹状突起の先端にある1ミクロン弱の突起「スパイン(樹状突起棘)」が、タンパクを取り込む「門」の開け閉めの役目を果たしていることも突き止められた。
今回の成果は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や統合失調症など記憶を結びつける機能の異常が原因とみられる病気の治療法や、新たな脳の部位で機能を代替することによって効果が現れるリハビリの効率改善などにつながることが期待できる、と研究チームは言っている。
研究には昨年ノーベル化学賞を受賞した下村脩・ボストン大学名誉教授が発見した緑色蛍光タンパクが使われた。
この研究成果は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の一環として得られた。
PTSDなどの精神疾患領域のみならず、記憶するということは社会で生きる上でどんな職の人にも関わってくることですからね。
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