MITメディア・ラボの研究者たちが、サルの脳にある特定のニューロン(神経単位)をレーザーを使って活性化することに成功した。この技術は、魚、ハエ、ネズミの神経回路の制御と研究に用いられ大いに喧伝されてきたが、霊長類に使用されたのは初めてだ。
この研究の中心になっているのは、MITで神経科学を研究するEd Boyden教授と、研究員のXue Han氏だ。「この技術を発展させれば、いくつかの精神疾患の新しい治療法につながる可能性がある。これはトランスレーショナル・リサーチ[基礎的な研究から実用的な開発にまで及ぶ研究]の観点から言って非常に刺激的だ」と、Boyden教授は述べる。
「特定タイプの細胞に生じた変化と関係のある疾患は多い」と、Boyden教授は言う。「臨床目的では、特定の細胞に影響を与えても、正常な細胞はそのままにしておきたい。光を使って特定の細胞を正確なタイミングでオン・オフできるとなると、原理的には新しい療法につながる可能性がある」
この光遺伝学的(optogenetics)技術の利点は、対象とするニューロンを限定できることだ。レーザーと遺伝子工学を組み合わせて使うことにより、限定されたニューロンの発火をミリ秒単位で制御できる。問題のある細胞と神経回路だけに照準を合わせ、関係のない細胞を対象から外すことで、副作用が起きる可能性を最小限に抑えることができる。
もともと藻類で発見された、青い光に反応する特殊なチャネルを発現する遺伝子を、ウイルスを使ってニューロンに送り込む。このニューロンに青いレーザーを当てると、チャネルが開いて細胞内にイオンが流入し、ニューロンが発火する、という仕組みが利用されている。
この技術にとって決定的に重要なのは、ウイルスが脳のごく小さな部分だけに注入されるようにすることだ。つまり、限定されたニューロンだけにウイルスが感染し、チャネルが開くようにする。そして、レーザービームの照準を、脳の限定された部分に正確に合わせる。これに対し、薬剤や電極を使う現在の治療技術では、ずっと広い範囲に影響を及ぼしてしまう。
4月30日付けで『Neuron』誌に発表されたBoyden教授の新しい研究は、霊長類にもこの技術を適用できるだけでなく、安全でもあることを示している。複数回にわたってウイルスを注入されたアカゲザルは、8〜9カ月にわたってレーザー刺激を受けてもニューロンに損傷はなく、ウイルスを使う場合は当然懸念される脳の免疫系の発動も見られなかった。
将来の応用としては、現在すでに使われている脳深部刺激療法(ニューロンを電極で活性化・非活性化する療法)の代わりに、光を発する神経補装具を使うことが考えられる。脳深部刺激療法はパーキンソン病、てんかん、鬱病などの治療に役立つことが分かっているが、刺激を与える対象となるニューロンが限定的でないことも一因で、いくつか副作用が生じる可能性がある。
ここまで細部の操作が可能になると、あとは脳の細かい領域区分が分かってしまえば、ある程度までの難病を治療することができるようになるかもしれません。鬱病や統合失調症なども原因となる場所は分かっているわけですから、あとはそこを狙って叩いてやるといった治療法も可能となるかも。正常なニューロンには影響を与えない、という点が大きいですね。
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