交通事故や激しい運動の際のショックなどで、傷ついたり切れたりした靱帯を再生するコラーゲン組織の開発に、立命館大理工学部(草津市)の山本憲隆教授(生体工学)が取り組んでいる。ラットやマウスの腱から取り出したコラーゲンから、実際の人の靱帯に近い人工靱帯を作り出す方法を模索しており、10年以内の実用化を目指している。
山本教授によると、人の靱帯は60%が水分で、残りの大半はコラーゲンでできている。関節の周囲にある側副靱帯は縫い合わせれば自然に再生するが、関節の内側で骨をつなぐ十字靱帯は、いったん切れると縫い合わせても再生しない。このため、人工靱帯を移植して治療するのが一般的だ。
従来の人工靱帯は、傷ついていない他の部分の靱帯を切り取り、フッ素樹脂などの繊維やポリエステルと合わせてつくる。しかし、繊維やポリエステルは骨とこすれて摩耗し強度が徐々に落ちていくという。
こうした弊害を解消しようと、山本教授は繊維などを使わずに、動物から抽出したコラーゲンを使って靱帯を作ることを考案した。
動物から抽出したコラーゲンを、ゼリー状に固める技術は既に確立されている。ただ、人の十字靱帯は200キロ前後の張力に耐える強度が必要で、そうした強いコラーゲンを人工的に作り出す技術はこれまで開発されていなかった。
人の靱帯は、直径1.5ナノメートル(1ナノ=100万分の1ミリ)の細かいコラーゲンの分子が規則的に絡み合い、直径2〜3センチの靱帯になる。山本教授の研究では、動物のコラーゲンを溶かし適切な酸度と温度を加えることで、高い強度を実現。分子がつくった直径1マイクロメートル(1千分の1ミリ)の「線維」と呼ばれる段階まで、人の靱帯と同程度の強度を保てるようになった。
ただ、線維がどのような配列で直径2〜3センチの靱帯を構成しているかまでは、現時点では解明されていない。山本教授は「線維の配列のメカニズムを正確に調べ、その通りに再生できるかどうかが、今後の課題」という。
これまでの研究成果は、今年9月に盛岡市である日本機械学会で発表される予定。山本教授は「残された課題を少しずつクリアして、人体に負荷がかからない再生技術につながる理論を導きたい」と話している。
交通事故による損傷だけでなく、激しい足の動きをするスポーツ選手、特にバスケット選手などに有用だと思われます。バスケット選手と靭帯損傷とは切っても切り離せないぐらいの関係にありますし。
タイムリーなことに、先週の週刊少年チャンピオンで新連載された「ブラックジャック」では、バスケット選手に靭帯を移植する手法が取られていました。
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