理想の退職年齢については長年議論されてきたが、米国経済の急激な不況に伴い、「働くのに年を取りすぎなのは何歳か(how old is too old to work?)」という疑問が人々の最大の関心事となっている。住宅ローン問題や株価暴落の影響による退職金の減少が懸念され、90歳を過ぎても働き続けるほかないという冗談もささやかれるが、実際にそのようなことが可能なのだろうか。
研究者らによると、理想的な退職年齢というものはなく、高齢者でも新しいことを学び、鋭い思考力を保っていれば、雇用市場で引けを取らないことがわかっているという。米メイヨークリニック(アリゾナ州)神経学教授のJoseph Sirven博士は「働くのに年を取りすぎなのは何歳か」という質問への答えは「仕事ができなくなったとき」で、そうなるのを防ぐ方法は多くあるという。健康的に年を取る秘訣は忙しくあり続けること、それも運動や身体的活動ばかりでなく、むしろ精神面、認知面で常に活動的であることが重要だという。
今日では、高齢者がそれまでの仕事を辞め、自分の技術や経験を活かしつつ年齢の問題も考慮に入れて別の職に転職することも多いという。従来の退職年齢である65歳を超えても仕事を続けたければ、自分の特質と短所を見極める必要があるとSirven氏はいう。高齢者は素早く機敏に動くことはできないかもしれないが、知恵と経験があり、過去の不況を体験している点でも若い同僚から評価される可能性があると同氏は述べている。
米スタンフォード大学(カリフォルニア州)精神科臨床准教授のJoy L.Taylor氏は、技術を磨き続けることで仕事の実績に差が出ると強調している。同氏は、米国連邦航空局(FAA)が職業パイロットの退職義務年齢を60歳から65歳に引き上げたことを受け、40〜69歳の非職業パイロットを対象に年齢が認知能力に及ぼす影響について検討した。その結果、60〜69歳のパイロットは、最初は若いパイロットに比べて技術が劣っていたが、フライト全体の成績では差が小さくなったほか、時間とともに「回避(traffic avoidance)」能力については若手よりも大きな向上がみられることがわかった。
この研究は、Sirven氏らによる論説とともに、医学誌「Neurology(神経学)」2007年2月号に掲載されたものである。Taylor氏らは現在、着陸待ち旋回飛行時などの運動技術についての年齢による低下をパイロットへの特別な訓練によって克服できるのかどうかを研究している。
退職する平均年齢を過ぎても仕事を続けるためには、新しい言語や楽器を学ぶなど、常に新しい取り組みに自分を駆り立てることだとSirven氏は助言している。Taylor氏は、仕事の技術の維持、運動や健康的な食生活を勧めており、認知面と身体面の健康はどちらも同じくらい重要であると指摘している。
どんな職業であっても、「生涯学習」が大事であると。学ぶことを放棄しているような高齢者は、脳の柔軟性も落ち、新しいことを受け入れられなくなり、更には自分の凝り固まった概念を外に吐き散らすようになる。こういう人がもし無理をして働いた場合、言葉は悪いですがまさしく「老害」です。
自分の限界を認めることは大切だと思いますし、それでも働きたいというのなら出来るだけ向上するような生活を心がけるべきです。政治家や医療従事者などは、他者の意見を聞いたり新しい考えに対応したりと、求められる能力が高くなっています。それを無視してまで働くことは社会にとって害となるのです。
できるだけ現役でいるためにも、学ぶ姿勢、そして自分の考えを「再考する」姿勢を心がけていきたいですね。
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