2009年04月16日

政治家こそうつ病を受け入れて偏見を無くすべきである。

精神科医、国際医療福祉大学教授・和田秀樹

 自民党幹部が大分市で行われた党の県連大会で、「うつ病で休業している先生はたくさんいる。国会議員には一人もいない。そんなに気が弱かったら務まらない」と発言したそうだ。

 この発言は精神科医として看過できない。日本の自殺は年間3万3000人。先進国では自殺率はトップである。さらに44歳までの成人の死因の1位でもある。欧米の調査では、その7、8割がうつ病がからんでいるとされる。

 もちろん、精神科にかかっていてもうつ病で自殺する人はいるが、助けられる命はかなりの数に上るはずだ。

 そして、うつ病というのは、気が弱いからかかる病気ではない。それまで活躍していた政治家や経営者をも襲う誰もがなり得る病である。もしそのような偏見のために精神科の門を叩けない人がいるなら、むしろその誤解を解くのが為政者の役割ともいえる。

 ただ、怒っていても始まらないことにも気づいた。

 一般の人より情報が豊富なはずの政治家でさえ、この病気を正しく理解していないのであれば、むしろ彼らにそれを理解してもらうことのほうが、自殺する人を減らせるし、国益にもかなうはずだからだ。

 自殺予防に最も有効とされるのは、地域の人たちに精神疾患に対する正しい知識を提供し、その偏見を取り除くこと、そして、援助を求めることへの抵抗を減らすとともに、どこに援助を求めたらよいかを伝える啓蒙活動、自殺予防教育とされる。

 実際、この対策でフィンランドは、現在の日本の自殺率より高い状況であったのを改善し、3割以上も自殺者数を減らすことに成功した。新潟県の旧東頸城郡では、メンタルヘルスに対する正しい知識を提供するとともに、高齢者のうつ病を早期に、集中的に治療するなどの対策を行ったところ、約10年の間に高齢者の自殺率がなんと7割以上も減った。

 国会議員にうつ病が一人もいないという発言を前述したが、実は、うつ病というのは、かなりありふれた病気である。アメリカの統計では、生涯のうちにかかる率は男性で5〜12%、女性では10〜25%におよび、WHOの推計では現時点でうつ病になっている人は3%に上る。

 実際に、涙目になったり、空虚感、体重減少、不眠、疲れやすさ、思考力や集中力の減退などの症状のうち5つ以上が2週間以上続けば、うつ病と診断される。

 テレビの記者会見で涙目になっていた上に、体重減少や不眠を報道されるなど診断基準にあてはまると思える政治家は最近でも複数いた。おそらく、同様の状態に現時点で陥っている政治家もいるだろう。現実に、過去には、何人も自殺した政治家がいた。

 しかし、自民党幹部の発言を聞く限り、自分がうつ病だと告白している政治家はいないということなのだろううつ病とわかっていて、隠さないといけないと思っているなら、政界にはまだまだうつ病に対する偏見が強く残っていることを意味する

 逆に、こういう状態になっても単なるストレスだなどと思って、医者にかからないとすれば、これは自殺やうつ病に対する知識の不足を意味する。ここで、無理をすることで、自殺のリスクが高まるなど、本人のメンタルヘルスにはさまざまな悪影響がある。

 それだけでなく、うつ病になると、ものの見方が悲観的になったり、いろいろな可能性が想定できなくなったりする。また思考力や集中力も衰える。このような形で判断力に影響を与えるとされるから、病気のまま政治家を続けるのは、好ましいことではない

 もちろん、病気が治れば、普段通りの判断や思考ができるのであるから、むしろうつ病である期間は、休養していたほうが誤った判断をしなくてすむのである。

 だから、堂々とうつ病を告白して、休養してもらったほうが国益にかなうのだ。

 10年ほど前に、ノルウェーのボンデビック首相(当時)がうつ病を告白して、首相職を1カ月ほど休職したことがある。これが、素直に認められて、復職をした際には、喝采をもって受け入れられたそうだ

 ひいてはこのことが、国民のうつ病に対する偏見を大幅に緩和したとされる。うつ病は治る病気であり、治れば、以前どおりのすばらしい能力を発揮できることを国民に示したからだ。

 ノルウェーも以前は自殺の多い国だったが、現在の自殺率は日本の半分程度となっている。政治家自身が、うつ病について正しい知識をもち、堂々と告白できるくらいに偏見を捨てることが、自らのメンタルヘルスや判断力に好影響をもたらすだけでなく、国民のメンタルヘルスを守り、自殺を減らすのだ。

 政治家に、正しい自殺予防教育を受ける機会を設けることを切に望みたい。



 おおー、これは良い正論。

 日本の自殺率が高いのは、有識者とされる人たちにこそ偏見があるから、ですかね。苦しんでいるのは一般人も有識者も同じかもしれませんけれど、うつ病でない有識者によるアンチうつ病(我々はうつ病になるはずがない)という誤った考え方によって、ろくな対策もとられていないのかもしれません。

 政治家だって役人だって、うつ病と診断されたら治療すればいいんです。正直言って政治家なんてただの人、うつ病にだってなりましょう。誰も政治家が強いなんて思っちゃいないですし。

 逆に政治家がうつ病を認めないなら、政治家として選出した意味がない。北欧はそこらへんが進んでるなぁという気がします。政治家が変わったから、国民も変わったんでしょうね。日本は民主主義を戦後に急に導入したせいか、どうも政治家が何か勘違いしている傾向にあるような気がします。当たり前のことを当たり前のようにやればいいだけです。
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posted by さじ at 23:47 | Comment(3) | TrackBack(0) | 精神
この記事へのコメント
ウィンストン・チャーチルも躁鬱病だったんですけどね。そのぐらい知っていて欲しいものです。政治家ならば。
Posted by at 2009年04月18日 12:58
ウィンストン チャーチル英首相の躁鬱病は知らない人はいません 良い政治家が育って活躍してこそ国民を国際社会をリード出来ます時代背景が違うにせよ過去の政権の一人の政治家の発言なんて気にもしなかった!そんな政治家ばかりでないと断言します
Posted by みか at 2010年03月27日 10:42
はじめまして。
6年間のうつ病と闘っている39歳女性です。
記事を読ませて頂きました。私はツイッターもやっていますが、自分がうつ病だという事を隠さずツイッターで、発言してます。以外と、ツイッターをやってる方はうつ病で苦しんでる方が多い事を知りました。そこで、「実は・・・」という相談などを聞いたりします。
日本はなぜ、うつ病を隠しながら大人しく生活しなければいけないのでしょうか。
私は、もっとうつ病の方が堂々と生活出来る世界を望んでます。
ブログに少し、内容を掲載させて下さい。
宜しくお願い致します。
Posted by 岸原 貴恵 at 2011年09月21日 09:00
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