体内で約24時間周期のリズムを生み出し、生体の行動や生理現象を調節する体内時計の存在が知られています。体内時計は、細菌から人までさまざまな生物に組み込まれており、高等植物でも光合成や植物の生長・発達などに関与し、重要な役割を担っていることが分かってきました。
遺伝子レベルの解析が急速に進み、時計関連遺伝子やタンパク質が見つかり、これらが相互に連携してリズムを生み出すことなどが明らかになっています。朝方、昼、夕方位相遺伝子の同定も進み、なかでも、低温ストレス応答の遺伝子が昼位相遺伝子に多く含まれていることも分かってきました。しかし、こうした植物の概日時計システム機能の理解も、代謝物のレベルではほとんど未知の状態でした。
理研植物科学研究センターのメタボローム基盤研究グループは、名古屋大学と協力して植物代謝物を一斉に分析し、細胞内の概日時計と生体活動に必要なエネルギーを産出するミトコンドリア機能とが密接な関係をもっていることを発見しました。時計関連遺伝子を欠損させた変異植物体では、光や時間の条件に左右されず、ミトコンドリアの代謝経路であるクエン酸回路を構成する物質が、劇的に増加していたのです。
概日時計システムとミトコンドリア機能の関係は、動物や細菌で示唆されていましたが、植物では初めてのことです。システムの理解から、ストレス耐性植物や有用物質産生植物の開発が可能になると見込まれます。同時に、代謝産物の一斉分析を可能にしたメタボローム解析が、複雑な生命現象を包括的に理解する戦術として確かであることが明らかになりました。
日光を浴び続ける植物にこそ、むしろ体内時計は必要なものなのかもしれません。太陽の光の方向に伸びたり、葉を効率的に日光に当てるようになったりしていますからね。
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