1学級に1人はいるとされる注意欠陥多動性障害(ADHD)児の治療について、日本と海外の保護者では不安な点や治療への期待が大きく異なることが、国際調査で分かった。国内で保護者と医師の間にも、治療方針などの認識の差が浮かんだ。専門医や患者団体は、子供の自尊心を高めると同時に治療や支援態勢の充実を求めている。
「日本の保護者は、社会への適応という狭い範囲で子供の将来を考える傾向が強い。海外では社会うんぬんより、一個人としていかに幸せに暮らせるかを最初に考えるようだ」
調査結果を見ながら、日本発達障害ネットワーク代表の児童精神科医で北海道大大学院教授の田中康雄さん(50)が分析すると、中学生の息子がADHD治療を続ける30代母親は「海外では人と違うことを個性とみる傾向があるが、日本ではまだ“違い=いけない”という感覚が根強いから」と背景を説明する。
調査は世界精神保健連盟と日本イーライリリーが共同で行った「ADHD360国際調査」。日本、韓国、中国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、スペイン、メキシコの9カ国で保護者と医師に聞いた。
田中さんが指摘するのは「子供の将来に重要と思うこと」(複数回答)で、日本の保護者は「自立した生活」「社会への適応」が86%、75%と圧倒的に多いが、外国の保護者は46%、36%と各半分ほど。代わって「幸せに暮らす」が65%と圧倒的多数で、日本は逆に42%にとどまる。「キャリアを伸ばす」も外国の23%に対し日本は4%だった。
国内の保護者と医師に「子供の成長過程で心配なこと」を聞くと、保護者では「基本的日常生活が難しい」に次いで「自尊心を育てられない」が49%に上るが、医師は11%のみ。逆に医師は「学校で適切な行動をとれない」「学校での学習ができない」が56%、32%なのに対し、保護者は9%、13%にとどまる。
保護者と医師の認識差について「医療側は子供がまず集団に適応できるかどうかを重視し、結果として自尊心が生まれると考える」と田中さん。30代母親は「子供が学校に適応することはあきらめている親が多い。ただ、学校という物差しだけでなく、自分らしい自尊心を高めてほしいと願っている」と打ち明ける。
ADHDの患者とその家族を支えるNPO法人えじそんくらぶ代表の高山恵子さん(49)は「集団の中で子供が自尊心を失っていくのを親は目の当たりにし、何とかしたいと切望しているのに、医師が自尊心に重きを置かないことが分かり、驚きと同時に心配だ」と指摘する。
ADHDは脳神経系疾患とされ、有病率は子供の3〜5%といわれる。治療薬は米国の7種に対し、日本では1種しか承認されておらず、国内の治療・支援態勢も不十分だ。田中さんらは「日本でも患者側への具体的な治療計画構築や実際の手順の提示、十分な説明や診察の確保などが必要だ」と話している。
日本ではコンサータのみですからね。治療薬の選択の少なさは日本が抱え続けている大きな問題です。
こういう児童精神医学的な問題は、患者と医者というより患者の家族と医者の問題になってくるのでしょう。アメリカと日本の家庭や社会との折り合いというのはまた違う話なので、日本独自にADHDに対する扱いを考えないといけません。まずはその病気がどういうものなのか、を理解することから始まりそうです。
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