東京女子医大病院(東京都新宿区)で2001年、心臓手術中に人工心肺装置の操作を誤り、平柳明香さん(当時12歳)を死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた同病院元循環器小児外科助手・佐藤一樹被告(45)の控訴審判決が27日、東京高裁であった。
中山隆夫裁判長は、1審・東京地裁判決と同様に無罪を言い渡したが、死亡の原因については、佐藤被告とは別の執刀医のミスを示唆するなど、1審とは異なる判断を示した。検察、地裁、高裁がばらばらの原因を指摘したことになり、医療事故を刑事司法の世界で裁くことの難しさを改めて印象づける結果となった。
佐藤被告は01年3月、明香さんの手術の際、同装置の吸引ポンプを高回転にした過失により回路のフィルターを水滴で詰まらせ、血液がうまく抜き取れない「脱血不良」状態を招き、脳障害で明香さんを死亡させたとして、起訴された。
05年11月の1審判決は、フィルターの目詰まりという装置の不具合が原因で脱血不良となったとした上で、目詰まりについて「当時の医療水準では危険性を予測できなかった」として無罪を言い渡したため、検察側が控訴していた。
この日の判決は、「佐藤被告とは別の執刀医が血管に挿入した管の位置が悪かったことで、脱血不良が続き、致命的な脳障害を招いた」と1審とは異なる原因を認定。「人工心肺装置の問題が原因になったとは言えない」と佐藤被告の責任を否定した。
判決は、1審判決の認定通りフィルターの目詰まりが原因だった場合に、佐藤被告の責任が問えるかについても検討。当時、目詰まりの危険性について指摘した論文がないことから、「被告に予見可能性があったとは言えない」と述べた。
この事故では、カルテを改ざんした同病院元循環器小児外科講師(53)が証拠隠滅罪に問われ、04年3月に懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受け、確定している。
渡辺恵一・東京高検次席検事の話「検察側の主張が認められず、遺憾である。判決内容を精査して、今後の対応を決めたい」
判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した佐藤一樹被告は、無罪の結論にも笑顔はなく、「私の主張をすべて認めていただいた。裁判所としては、どういう原因で亡くなったのかを、必ず知らせなければならないと考えたのだと思う」と、静かに話した。
この日の法廷で、中山隆夫裁判長は、「手術チームによる過誤で明香さんが亡くなったことは事実で、正面から受け止めてほしい」と述べた。この点について、佐藤被告は「自分も子どものころ(明香さんと)同じ病気だったので、ご家族の気持ちはよく分かる。私もチーム医療の一員であったということを重く受け止め、今後は学会などで、再発防止に向けた発言をしていきたい」と話した。
一方、明香さんの両親も会見し、父の平柳利明さん(58)は「今日まで非常に長かった。1審と2審で結果が違い、改めて医療過誤を刑事で立件するのは難しいと思いました」と沈んだ声で話した。ただ、中山裁判長の言葉については、「私たちが本当に言いたかったこと。あの言葉で十分だったとも思う」と話した。
こういった事件が起こったことは、患者側にとっても、医療者側にとっても不幸でした。もっともいけなかったことは「カルテを改ざんした」ことですけれど、そちらは既に罪として確定していますので。
医療過誤があったことを認め、そして二度とこのようなことが起こらぬように、マニュアル作りを徹底するとか、ダブルチェック、トリプルチェックを行うようにするとか、そういう工夫と意識の持ちようが、大事だと思います。
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