レントゲンやコンピューター断層撮影(CT)の画像から、がんなどの病巣を見抜く「読影医」という専門医がいる。高度な知識と経験が要求され、独立して開業する読影医は国内でもわずか30人程度と言われる。中でもトップレベルと評価される煎本正博さん(58)を甲州市勝沼町の別宅に訪ねた。
「3スラッシュ4の椎間板はさらに髄核の脱出が認められ、ヘルニアと診断されます」−−ブドウ畑を一望できる2階の仕事部屋で、モニターのCT画像を見ながら、煎本さんは手にしたマイクに向かって診断結果を読み上げていく。音声変換された文章が診断書に速やかに並ぶ。
時間にしてわずか5分。診断書は即座にメールで依頼主の開業医に送られた。音声から文字への変換の正確さ、卓上に並ぶモニターの数々は、さながら近未来を連想させるが、まぎれもなく現代の医療現場の一つだ。
煎本さんの仕事をサポートするのは「遠隔画像診断システム」だ。画像は勝沼の別宅や東京都国立市の自宅でも受信可能で、遠隔地からの依頼も瞬時に受けることができる。
国内ではここ10年で急速に普及した。米国では、深夜や週末に救急患者が発生した場合、時差を利用してインドや豪州の読影医にメールで判断を仰ぐことも一般的という。
煎本さんは大阪府出身。順天堂大学医学部卒業後、都内の病院で放射線科医として勤務した。大学教員などを経て01年、読影医として独立し「イリモトメディカル」(東京都文京区小石川)を開業した。当時は読影のみで開業できるとは思われておらず、同僚の医師からは変わり者扱いされたという。
だが、専門技術を広く提供すべきだと考えた煎本さんの考えは多くの開業医や地方病院から支持された。今では毎年10万件以上の依頼を受ける。「国内で撮影されているCTやMRI(磁気共鳴画像化装置)画像のうち、専門医が見ているのは6割程度にすぎません」(煎本さん)。画像診断料は1件2500〜3000円で、依頼した医師の負担になるが、見落としなどのリスク回避のため、積極的な依頼が多いという。
煎本さんによれば、読影医の診断がより重要になるのは、膵臓がんや乳がん。膵臓がんは、痛みを感じるころには神経などに転移し、手遅れの場合がほとんど。自覚症状のない段階で読影医が見抜くことができれば早期に治療できる。
乳がん診断の最新技術として導入されているマンモグラフィーは、画像の診断が難しく、正確に読み取れる医師が少ないという問題がある。専門の読影医であれば、がんか良性の腫瘍かを正確に判断でき不要な手術が回避できる。
課題は最新の知識をどう確保するか。画像診断の技術革新は速く、2〜3年で古い知識は通用しなくなるという。煎本さんは学会への出席や、週に1度の救命救急センターでの勤務を続け、スキルアップに努めている。
趣味のワイン用ブドウの栽培や息抜きのため、2年前に勝沼の高台に別宅を構えた。週に1〜2日を県内で過ごすのが楽しみだ。
「すばらしい景色でしょ」と、煎本さんは笑顔を見せる。「自分の腕一つで世界レベルの仕事を供給できるのが魅力です。より多くの若者が放射線科医になれば日本の医療レベルは上がる。若者たちの目標になりたいですね」。ブドウ畑に落ちる夕日を見ながら目を輝かせた。
日本でも近年急速に「放射線科医」というジャンルが進歩しつつあります。放射線科医というのはX線、CT、MRIの読影だけでなく、放射線治療も行うプロフェッショナルです。
普通の内科医や外科医でもある程度までは画像診断できるのですが、放射線科医の読影スキルははるか上をいきます。ほんのちょっとした白黒の濃淡で「この疾患の可能性が高い」と診断する技術はまさにプロフェッショナルです。
大学病院などでは放射線科医の診断を仰ぐこともできますし、定期的に放射線科医との合同カンファレンス等で意見を交わすこともできます。この画像診断レベルを日本全国で普及させようとするならば、やはりこういった、依頼を受けて画像を転送し、診断をしてもらうというシステムが広く普及する必要がありますね。
もし欧米並みに放射線科医の必要性が謳われれば、放射線科医の開業というのも増えるでしょう。自宅にいながらにして医者の性分を全うするということは、育児を行う女性などにも人気が出そうです。
見た感じで判断するということは、その人個人の能力に完全に依存するわけですから、日々の鍛錬が必要になってきます。プロ意識の高い人は放射線科医に向いているかもしれませんね。
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イリモト先生は良く存じ上げています。
一緒に飲んだことがあります。
乳がん、胃がん、肺癌など、CT、マンモグラフィー、エコーなどの検査機器を所有しているのでほとんどの臓器の形態診断が速やかにできます。