水戸済生会総合病院(水戸市双葉台、早野信也院長)で2004年、「ロス手術」と呼ばれる心臓手術を受けた鉾田市の高校3年石津圭一郎さん(当時18歳)が2日後に多臓器不全で死亡した問題で、県警捜査1課と水戸署が、執刀した心臓外科医の男性(47)を業務上過失致死容疑で水戸地検に書類送検していたことがわかった。
捜査関係者らによると、大動脈弁が正常に閉まらず、心臓に血液が逆流する「大動脈弁閉鎖不全症」と診断された石津さんに、医師は04年7月、肺動脈弁を大動脈弁に移植し、肺動脈弁は人工血管などを縫いつけて代用する難度の高いロス手術を行った。
ところが、医師は切除した肺動脈に適合しない人工血管を使ったうえ、人工血管と肺動脈の縫合部付近に狭さくを生じさせ、血の流れが悪くなり、右心不全に起因する多臓器不全を引き起こし、2日後に死亡させた疑い。医師は「人工血管の選択は適切で、狭さくも手術中に回復させた」と容疑を否認している。治療には、一般的には大動脈弁を人工弁に付け替える「人工弁置換手術」が行われるが、血液を固まりにくくする薬を飲まなくて済むなどの利点があるロス手術が選択された。県警によると、医師はロス手術の経験が1例しかなかった。
石津さんの両親は06年、病院を運営する社会福祉法人「恩賜財団済生会」と医師を相手取り、計約1億1000万円の損害賠償を求めて提訴し、現在、水戸地裁で係争中。病院は「書類送検についてまったく把握しておらず、過失があったかも聞いておらず、コメントできない」としている。
「多少は息子の無念を晴らせた気持ち」――。圭一郎さんの父親の洋さん(53)が鉾田市内の自宅で読売新聞の取材に応じ、心境を語った。
1月末、県警の捜査員から、書類送検の準備が整ったという報告を受け、妻の百美子さん(50)と、すぐに遺影が飾られた仏壇に報告したという。「長く、苦しいつらい時間だった」と振り返る一方で、捜査の状況などを報告し続けた県警に対しては「良くやってくれたという思いでいっぱい」と感謝する。
ただ、担当医や病院に対しては「あんな医者がいるのも許せないし、それを見抜けなかった病院の責任も重い」と怒りをあらわにする。手術前の「海外でロス手術の経験が20〜30回ある」という担当医からの説明が、事故後には「あれはロス手術の後の処置経験の回数だった」と変わり、「聞いていれば手術は頼まなかった」と語気を強めた。
「手術が終わったら思い切り抱きしめようと思っていたが、出来なかった。それが悲しくて悔しい。民事裁判もきっと見守ってくれていると思う」と話すと、そっと仏壇に手を合わせた。
解説
「明確な過失の立証には至らなかった」。
県警は医師の過失を認定する一方、心臓外科医ら7人の専門家の意見では、明確な過失が裏付けられなかったとする意見を付したうえで、医師を書類送検し、処分を水戸地検の判断にゆだねた。医療過誤に詳しい加藤良夫・南山大教授によると、産婦人科医が逮捕され、無罪になった福島・大野病院事件以降、術者の判断ミスや微妙な手技ミスについて、検察は起訴を慎重に判断する流れになっており、今回の事故で水戸地検が起訴の判断を下すかどうかは微妙だ。
ただ、警察はすべての医療事故を書類送検するわけではない。重大な事故でも、反省し、再発防止策が取られていれば、書類送検されないケースもあるという。県警が手がける医療過誤の案件は数十件に上る。そうした中で送検された重みを、医師も病院も真剣に受け止める必要がある。
続報です。
医学処:ロス手術後に死亡したとして水戸済生会総合病院を訴える
とうとう書類送検。どうなるんでしょうね。
外科医からすると、手術に「過失」があったかどうかは定かではない、と。ですが、患者の家族に手術経験が2、30例ある、と伝えている時点で十分医者としての過失があるように思います。
医療面での過失と、インフォームドコンセントの関係から裁判は進みそうです。