愛知医科大(愛知県長久手町)の研究チームが、けがや病気が治った後も痛みが続く「慢性痛」を、ラットで人為的に発症させることに成功した。より実態に近い実験モデルを開発したことで、謎の多い慢性痛の発症メカニズム解明へ前進が期待できそうだ。7月の国際生理学会世界大会(京都市)で発表する。
研究チームは、2003年に日本で初めて開設された「痛み学講座」の熊沢孝朗教授ら。これまで人為的に慢性痛を発症させるには、神経を直接傷つけていた。しかし、多くの慢性痛は、直接傷つかなくても発症し、メカニズムは謎。現在の研究の焦点となっている。
ラットの足に炎症物質「リポポリサッカライド(LPS)」を注入。1日後に痛みを起こす濃い食塩水を注入すると、神経を傷つけず慢性痛を起こすことができた。さらに、LPSの濃度が低く炎症が弱い方が慢性痛になり、高濃度のLPSで炎症が強い方が慢性痛を発症しないことも分かった。
LPS、食塩水それぞれ単独では、急性痛しか起こらない。なぜ組み合わせると慢性痛が起きるかは不明だが、濃度の組み合わせやタイミングが合うと異常な痛み信号が出続けてしまい、発症につながるとみられる。熊沢教授は「この実験モデルで、発症前の(炎症などの)状態がポイントであることが分かった。さらに解析を進めたい」と話した。
九州大医学研究院の吉村恵教授(神経生理学)の話 慢性痛は、神経損傷ではなく筋肉からくる痛みのケースが多い。実態に近いモデルは極めて珍しく、治療法や薬物開発に有効な研究成果だ。
痛みが続くことで苦しんでいる人というのは実際はかなり多いようです。ペインクリニックという、麻酔科の手法も最近では結構やられるようになってきました。これは痛いところに麻酔薬を注入することで痛みの連鎖を断ち切ってやろうという治療法です。このようにしないと慢性痛はとれないこともしばしばです。その根本的治療の開発ができるかもしれないニュースでした。
【慢性痛】
急性痛が治まった後、痛覚神経系が何らかの原因で“誤作動”し続けている状態。原因である傷病が治っても痛みが続き、鎮痛薬などが効かない。急性痛が長引いている状態とは違い、決定的な治療法、治療薬はない。研究先進国のアメリカでは、患者数は約7500万人と推計されている。
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