手術室で簡単なチェックリストを用いることにより、外科手術による合併症が減少し、生存率が上がることが報告された。世界では年間2億3,000万件(米国内では6,000万件)もの大きな手術が実施されており、米国人は生涯に平均9回の外科的処置を受けていることからも、「外科手術の安全性はいまや大きな公衆衛生問題となっている」と、研究を率いた米ハーバード大学(ボストン)公衆衛生学部准教授のAtul Gawande博士は述べている。
Gawande氏らは、手術の安全性を高めるため、航空機のパイロットが離着陸時に用いるのと同様な、声に出して読み上げる1ページのチェックリストを開発した。このリストは、「タイムアウト(timeouts)」と呼ばれる時間帯(麻酔開始前、最初の切開の前、患者を手術室から搬出する前)に、手術室の全スタッフに患者の重要な情報を確実に伝えるように作られたもの。最初の切開の前に必ず抗生物質を投与すること、手術室の全スタッフが互いの名前を知っていること、予想される失血量や手術の所要時間についてチームが簡単な説明を受けていることなどを確認する項目がある。
チェックリストの有効性を検証するため、Gawande氏らは患者7,688人(チェックリスト使用前3,733人、使用開始後3,955人)のデータを集めた。1年間の研究の結果、チェックリストの使用により、手術による主な合併症の発生率は11%から7%へと3分の1以上減少。さらに、死亡率は1.5%から0.8%へと40%以上減少することがわかったという。
このチェックリストはシアトル、トロント(カナダ)、ロンドン(英国)、オークランド(ニュージーランド)、アンマン(ヨルダン)、ニューデリー(インド)、マニラ(フィリピン)およびイファカラ(タンザニア)で使用され、ほぼ同程度の死亡および合併症の減少が認められた。現在、米国ではワシントン、ノースカロライナ、南カリフォルニア、インディアナおよびニューヨークの5州の病院協会でこのリストが採用されており、英国、フィリピン、アイルランドおよびヨルダンでも全国的に採用される予定だという。
手術部位の左右の間違いなどの手術ミスについて、メディケア(米国の高齢者医療保険)が払い戻しの対象外とするとの見解を示したことから、米国では外科手術に「タイムアウト」の導入が義務付けられたという。「当初は少し子どもじみているように思われたが、今では広く受け入れられるようになった。航空機のパイロットにもチェックリストがあるように、このリストが避けられるミスを減らすのに有用であることに疑問はない」と同氏は述べている。この報告は、米医学誌「New England Journal of Medicine」オンライン版に1月14日掲載された。
これは日本でも行うべき内容ですね。
部位の確認などは確実にしているでしょうけれど、手術にかかわるスタッフ全員で術前に患者情報などについて確認しあうことは大事です。
こういう地道な作業を行うことで、事故も減るんですよねぇ。やはり最後は手間を惜しまず確認することが重要と。
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