オーストラリアの物理学チームは、人間の血管内に挿入可能となる、極小電動ロボットの試作に成功した。英物理学研究所(Institute of Physics)の機関誌「Journal of Micromechanics and Microengineering」に20日発表した。
研究を率いる豪モナシュ大学(Monash University)ナノ物理学研究所(Micro/NanoPhysics Research Laboratory)のジェームズ・フレンド(James Friend)准教授によると、この極小ロボットのサイズは4分の1ミリ、または「髪の毛2-3本分の太さ」だという。
将来的には、遠隔操作で観察用センサー装置を運搬して映像を中継したり、血栓の除去、詰まった動脈の拡張、損傷した細胞の修復などの外科手術も可能になると、チームは期待している。
「鍵穴手術」など通常の低侵襲手術では現在、口腔など体の空洞部や動脈から挿入するカテーテルが使用されている。ただし、カテーテルは固いため、極細ながらも細い血管の壁に穴を開けてしまう危険性がある。
研究結果によると、このロボットには圧電を元にしたモーターが搭載されている。圧電とは、クオーツ腕時計や高級ライターなどに使用されている原理で、陶器やガラスが機械的圧力を受けると電圧が生じる。
今回の極小ロボットの場合、そのような素材が、内部に搭載されたコルク栓抜きのような微細構造を振動させると、柔らかい鞭毛でできた「プロペラ」が起動し、少なくとも流れがそれほど強力でない静脈では、ロボットは漂う細菌類のように血流に逆らって前進する。ただし、外部から遠隔操作される。
その後、画像やデータを送信し、最終的には手術も行う。作業が終わると、ロボットは注入口から注射器で回収される。故障した場合には、血流に乗って挿入口まで戻されるか、カテーテルによって回収される。
この極小ロボットは、ウェブサイトの投票で、1966年のクラシック・サイエンス・フィクション映画『ミクロの決死圏(Fantastic Voyage)』に登場した特殊潜水艇にちなみ「プロテウス(Proteus)」と名付けられた。
チームは現在、ロボットの組み立て方法と、ロボットを操作するリモコンの改良について検討しているというが、臨床使用にはまだ数年はかかる可能性もあるという。
ミクロの決死圏にちなんでいるところがなんともニクい演出。
これが実現可能になると今まで大きな侵襲性のあった外科治療が格段にアップすることに。
髪の毛2,3本分となると、例えば心臓の冠動脈を検査するカテーテル治療にとってかわる存在になるかもしれません。ただ、そのままステント留置などの治療は出来ないため、検査だけになってしまうかもしれませんが、それでも身体にかかる負担は大きく減ると思われます。
小さい治療器具ができるということはそれだけでいろいろなアイディアが生まれるものです。臨床応用が楽しみ。
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