妊婦がインフルエンザワクチンの接種を希望する場合は接種してよいという日本では初の公式見解が、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が作った「産婦人科診療ガイドライン産科編2008」(日本産科婦人科学会発行)に明記されている。インフルエンザは妊婦がかかると重症化しやすいとされており、予防の選択肢の一つとして期待が高まりそう。
3人目の子供を妊娠中の三重県に住む育子さん(36)=仮名=は12月、インフルエンザの予防接種を受けた。これまでは「妊娠中は予防接種なんて受けてはいけないと思っていた」。でも今回は、妊婦健診の時に医師に相談したところ、「打ったほうがいいですよ」と言われ、その場で接種した。「インフルエンザにかかったことがあり、とてもしんどかった。今年は予防接種できたので安心です」と話す。
予防接種するワクチンには、病原性を弱めたウイルスや細菌などをワクチンにした「生ワクチン」と、培養したウイルスや細菌などを精製してホルマリン処理などをして病原体を無毒化した「不活性化ワクチン」がある。妊婦には、「生ワクチン」は原則として禁忌だが、「不活性化ワクチン」は接種可能だ。インフルエンザワクチンは「不活性化ワクチン」のため、禁忌ではない。
厚生労働省は、インフルエンザワクチンの接種は、65歳以上の人に対しては推奨しているが、他の人は任意接種。「妊婦が接種することによる胎児への影響の有無など、安全性、危険性について治験が行われておらず、エビデンス(科学的根拠)がないため、勧めることはしていないが、妊婦も任意なので、個人の判断に任せている」と説明する。
これに対し、「日本産婦人科診療ガイドライン」には、「インフルエンザワクチンの母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じて極めて低いと説明し、ワクチン接種を希望する妊婦には接種してよい」と明記されている。その理由として、妊婦は心肺機能や免疫機能に変化を起こすため、インフルエンザにかかると重篤な合併症を起こしやすいとされていることや、妊娠初期も含めた全期間においてワクチンを接種しても特別な副反応の報告はなく、胎児に異常の出る確率が高くなったとするデータもないことなどを挙げている。
また昨年、世界で最も権威があるとされる医学専門雑誌「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」に「母体のインフルエンザワクチン接種が母親と乳児に与える有効性」(K・Zamanら)という論文が掲載された。それによると、ワクチンを接種した母親とその母親から生まれた子供は、接種していない母親とその子供と比べて、インフルエンザにかかった数は少なく、発熱を伴う呼吸器疾患の発症率も少なかったことが分かった。
元大阪府立母子保健総合医療センター母性内科部長で、ふじたクリニックの藤田富雄院長は「妊娠中に高熱が出る病気にかかることは、胎内での循環も変化し、胎児にとっても良いことではない」と指摘。この論文が要約された資料を院内に掲示し、妊娠初期を除き、接種を希望する妊婦に積極的に接種を勧めている。
ただ、産婦人科以外の医師は、妊婦の全身状態、胎児の状況は把握できないため、接種を敬遠することもある。日本医師会は「接種によるリスクと、インフルエンザにかかったときのリスクを考えて、妊婦と話し合って、それぞれの医師が判断している。ただ、データがないため、現場の医師も判断には迷っているだろう」(事務局)としている。
妊婦がインフルエンザにかかると、思いがけない合併症を引き起こす可能性もある。接種する際は、医師に相談してリスクをよく判断したうえで、受けるかどうか決めることが必要だ。
根拠を念頭に考えて今の医療は行われていますが、それでもすべて分かっていることばかりではありません。今回のように、打ったほうがいいのか、よくないのか、というのも今のところ曖昧です。
まぁ確かにインフルエンザにかかって40度近い発熱を出すことが母体にとっても胎児にとってもあまりよろしくないような気はしますね。できるだけ感染しないように気をつけているとはいっても。気になる方は医者に相談してみては。ガイドラインが決まっていない以上、本人の意思次第ですかね。
医学処:新型インフルエンザの大流行を未然に防ぐ方法。
医学処:新型インフルエンザ対策で注目を集める「ダチョウ抗体」
医学処:アメリカのインフルエンザはタミフル耐性のものが多い