麻痺した四肢を動かすための最新の取り組みの中で、脳の個々の単一ニューロンを活性化して麻痺した手首を動かす方法が突き止められたという。米ワシントン大学(シアトル)の研究グループは、サルを用いた実験で、脳−コンピューターインターフェースという装置を用いて脳細胞と接触し、麻痺した神経部位を迂回して、腕の筋肉に刺激を与えることに成功した。この研究は、脊髄損傷、脳卒中をはじめとする運動障害の治療や、人工装具の開発につながる可能性があるという。
同大学生理学・生物物理学のChet Moritz氏らが今回用いた方法は、麻痺した筋肉を刺激する研究においてほかの方法とは異なる。ほかの方法は、実際の運動や運動イメージに関わる脳細胞を利用しようとするものであったのに対し、Moritz氏らは、生体フィードバックを用いて多数のニューロンを、筋肉を刺激するように再訓練できることを突き止めた。この報告は、英科学誌「Nature」オンライン版に10月15日掲載された。
今回の研究では、一時的にサルの腕を麻痺させ、サルの脳から腕の筋肉へ運動制御シグナルを伝達する人工的な迂回路を作った。「運動皮質と呼ばれる脳部位の個々の単一ニューロンを記録し、コンピューターを通じて経路を作り、このニューロンの活性を用いて麻痺した筋肉を刺激した」とMoritz氏は説明する。サルはこの刺激方法を用いて、あらかじめ教えられた手首の曲げ伸ばしを要するテレビゲームをすることができたという。
「いったん麻痺させると、サルが手首を動かす唯一の方法は脳の個々のニューロンの活動を変えることで、サルは筋肉への刺激を制御した」とMoritz氏はいう。研究グループは、試験したニューロンの3分の2が筋刺激の制御に利用されることを突き止めたほか、サルが極めて短時間で、別のニューロンを制御して筋肉を刺激できるようになることも明らかにした。
研究共著者で同大学教授のEberhard Fetz氏は、今後の研究ではこの脳−筋肉インターフェースの持続時間を延長することに焦点を当て、最終的には、脊髄を刺激して筋肉群に調和した動きをさせることを目指したいとしている。別の専門家もこの研究を有望視しており、「装置の長期間の脳への埋め込みや小型化など、いくつかの問題を克服すれば、筋肉の運動を回復させることも可能になるかもしれない」と述べている。
最近麻痺した腕を動かしたり、無くなった腕を機械で動かしたりするニュースが増えてきました。
この分だと再生医療の分野は、神経をも克服した存在になるでしょうね。機械を介してでも動かすことができれば、脊髄疾患などの神経の異常を患う方は社会復帰可能なまでに回復するかもしれません。
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