2008年11月12日

身体症状から始まるうつ病もある。

自分なら「ウツ」は必ず自覚できる、という誤解

ある朝突然、身体が動かなくなった

 朝は、眠気とだるさで、洋服を着替えるにも妙に時間がかかるようになってしまい、ほんのネクタイ一本が選び切れない。クローゼットの前で呆然と立ち尽くして、気がつけばもう家を出る時間。うかうかしていたら電車に間に合わない。そんなことは重々わかっていても、身体がテキパキと動いてくれないのです。

 ある朝のことです。

 重たい身体を引きずってどうにか玄関に立ったAさん。玄関で靴を履こうとしたところで、ついに、まったく動けなくなってしまったのです

――「いったい何が起こったんだ?」「俺は、どうしちゃったんだ?」

 頭の中を、そんな疑問がグルグルと駆けめぐる。しかし、どうやっても身体は動こうとしない。気づくと、涙があふれてきている

――「悲しいことなんか何もないのに、どうして俺は泣いているんだ?」

 様子がおかしいと気が付いた妻が玄関に駆けつけてみると、そこには、呆然とした表情で目には涙をいっぱいにためた夫が、立ちつくしていました。

「どうしたの? 何かあったの?」と声をかけてみても、すぐには答えが返ってこない。しばらくして、やっと重たい口がひらく。「なんにも……でも……どうしても、身体が動かないんだ!

 そして、子供のように泣きじゃくる夫の異常な姿を見て、妻は「これはただ事ではない」と、すぐに病院を受診させることにしたのでした。

 Aさんの「うつ」は、このようにして始まったのです。

 このAさんのように、「うつ」は、必ずしも典型的な抑うつ気分(落ち込んだ気分)から始まるとは限りません。「心」の叫びは、初期の段階では、「身体」のさまざまな不調として現れてくることも珍しくはないのです。

 Aさんの例で見てみますと、まずは「電話がかけられない」という異常が起こり、徐々に集中困難、作業能率や判断力の低下、疲れ易さ、全身倦怠感、眠気などが見られるようになって、ついに出勤時に「動けない」状態に陥りました。そして、本人にも不可解な涙まで出てきています。

 私がこれまで実際に経験したさまざまな「うつ」のケースを思い起こしてみますと、初期症状として現われた身体症状には、かなりのバリエーションがあります。

 たとえば、胸の痛み、過呼吸発作(過換気症候群)、手の震え、声が出ない(失声)、吐気、食欲の減退、性欲の減退、冷汗、めまい、頭痛、胃痛(胃潰瘍、胃炎、胃痙攣)、下腹部痛、動悸、喉に物が詰まったような違和感、眼痛、肩こり、腰痛、等々さまざまです。

仮面うつ病」という病名があります。どこかで聞いたことがあるかもしれませんが、これはmasked depressionの訳語で、「隠されたうつ病」という意味です。つまり、身体症状だけが前面に現れている状態なので、「うつ」であるとは全然自覚されずに、身体の病気と捉えられてしまう病態を指します。

 ですから、「仮面うつ病」の場合は、本人も身体疾患だと思っているので内科などを受診することが多いのです。精神的な自覚症状が本人にないのですから、内科医も「うつ」が隠れていることを見過ごして、内科的治療だけを続けてしまうことも少なくありません。

 Aさんの場合は、集中困難や眠気等の精神的症状も現われていますので、診断上は「仮面うつ病」には当てはまりませんが、精神的な問題という自覚がないところは、とても似かよっています。



 このAさんの例でも、重要なのは

 こういう状況になったときに、周りが把握して病院につれていくことができたこと、ですよね。

 周囲に精神疾患に対する理解がなければ、その後の「治療」すら出来なくなってしまいます。怖いことです。

 日本はまだまだ精神疾患に対する理解がなく、偏見や妄信ばかりです。うつ病は甘えであると、未だに思っている人もいるくらいですから。石器時代のような浅い考え方をする人が周りにいては、うつ病の治療が出来なくなってしまいます。

 まずは、疾患に対するご理解を。次いで、ご協力を。

関連
医学処:うつ病の復職の原則は、「もとの職場に」。
医学処:うつ病を証明する客観的指標として脳血流を評価する。


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posted by さじ at 04:01 | Comment(2) | TrackBack(0) | 精神
この記事へのコメント
>日本はまだまだ精神疾患に対する理解がなく、偏見や妄信ばかりです。

最近は駅前ビル内に「○○メンタルクリニック」が増えたような気がします。
「精神科」より「メンタルクリニック」の方が、名称のせいでしょうか、
ライトな感覚で気軽に脚が向きそうです。

かくいう私も、精神的、心身伴に落ち込む出来事があり、実は精神科に通院中です。
(職場、その他には秘密という程ではありませんがね。)
ソラナックス 0.4mg を処方されて飲んでますが、これが良く効いてます。

あれこれ悩むより、気軽にとは言いませんが、メンタルクリニックに行くのは
決して悪いことではありませんよね。






Posted by 馬小屋 at 2008年11月14日 14:04
馬小屋さん、いつもコメントありがとうございます。

精神科であることを隠すために神経科とか、心療内科とか、内科と標榜しているところもありましたね、昔は。

個人的にはもっとどんどん、それこそ気軽に足を運んでみてもいいんじゃないかな、と思います。薬に頼るのも1つの策だと思いますし。
Posted by さじ at 2008年11月26日 22:02
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