英ケンブリッジ大(University of Cambridge)の研究チームは23日、白血病治療用に開発された薬剤アレムツズマブが、多発性硬化症(MS)にも効果があるとの発見を報告した。多発性硬化症の進行を阻止するだけでなく、回復も促進するという。
多発性硬化症は自己免疫疾患の一つと考えられており、白血球やリンパ球などの免疫系が中枢神経系の神経線維を攻撃してしまう結果、視力の低下や四肢のまひ、疲労といった身体障害のほか、抑うつや認知障害などを起こす。患者数は世界で数百万人とされ、英国では10万人、米国では40万人が発病している。
試験では、アレムツズマブによって発症回数が減り、さらに障害を起こした機能が回復した。破壊された脳組織が修復されたためで、研究開始時よりも患者の健康障害が改善した。
今回の研究を多方面で準備した同大臨床神経科学部の講師、アラスデア・コール(Alasdair Cole)博士は、「脳組織の修復を促進するMS治療薬の存在はかつてなかった。十分早期に使用されれば、MSの進行を停止すると同時に、組織修復により失われた機能も回復させる薬だ」と期待する。
英国最大の患者支援団体、多発性硬化症協会の主任研究員リー・ダンスター氏は、今回の試験結果に対し、市販薬として承認を受けるまでにはさらなる研究が必要だとしながらも「MS治療で病状の進行を止める可能性がある薬は初めて。アレムツズマブはさらに機能回復効果もあるという。毎日症状に苦しんでいる人たちにとって、この上ない朗報だ」と歓迎を表明した。
欧米では、青年期の神経障害の原因としては外傷に次いで頻度が高いといわれている、この多発性硬化症。
神経には、有髄神経と無髄神経があります。軸索という中心の棒のようなものの周りに、髄鞘というカプセルが何個も覆われているのが有髄神経です。こうすることによって、カプセルごとに伝導が移動する「跳躍伝導」という形を取れるため、無髄神経に比べて伝導速度がかなり早くなります。この髄鞘が自己免疫などで壊されることで、多発性硬化症の症状が出るわけです。
中枢神経の伝導速度の異常によって、四肢の脱力(筋力低下、疲労感、歩行障害など)や、感覚障害、視神経炎、膀胱直腸障害、など色々な症状が起こります。多発性硬化症によって死亡することは稀ですが、これらの症状がいかに生活の質を下げるか、想像に難くありません。(多発性硬化症患者の25年生存率は85%といわれており、死因の多くは、衰弱した患者に起こった肺炎などの合併症や自殺によるものと言われています)
ステロイドなどで自己免疫を抑制したりインターフェロンやビタミンDを使う治療もあるようですが、神経そのものを回復させる治療薬として、アレムツズマブが臨床応用されれば、多発性硬化症の症状で苦しむ患者にとってはまさに救いの手となることでしょう。
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