さいたま市見沼区の「東大宮総合病院」に勤務していた男性麻酔科医(5月に死亡、当時42歳)が、院内で医療用麻薬を自身に注射したとして、麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で書類送検された。麻酔医は、自分で使った麻薬と同じ量の別の液体を麻薬と偽って病院に戻したり、麻酔記録を改ざんするなどの「偽装工作」を重ねていたとみられる。医療用麻薬の管理体制のあり方も問われそうだ。
県警薬物銃器対策課の発表によると、麻酔医は5月12日、医療用麻薬のフェンタニルとレミフェンタニルを手術室のトイレで自分に注射した疑い。その直後、トイレ内で急性循環不全のため死亡した。
麻酔医が死亡直前に担当した手術では、生理食塩水で希釈するなどしたフェンタニル4ミリ・リットルと、レミフェンタニル40ミリ・リットルが用意された。麻酔医が記した記録によると、フェンタニルは3ミリ・リットル、レミフェンタニルはすべて使ったことになっていた。
しかし、手術室にあった「フェンタニル」のラベルが張られた注射器内の液体1ミリ・リットルを調べたところ、液体はフェンタニルではないことが判明。一方、倒れた麻酔医のそばに落ちていた使用済みの注射器内には、レミフェンタニルが残っていた。
県警は、麻酔医がフェンタニル1ミリ・リットルを自らに投与した後、別の液体を注射器に入れて手術室に戻した上、レミフェンタニルを一部投与しながら、すべて患者に投与したように記録を改ざんした可能性が高いとみている。
捜査幹部によると、麻酔医の両ひじにあった複数の注射跡は一部が硬化しており、長期間にわたり、常習的に麻薬を注射していた可能性があるという。麻酔医の自宅を捜索した結果、未使用の注射針5本が見つかった。
同病院を含めほとんどの病院では、薬剤部が医療用麻薬を保管しているが、使用する麻薬量の帳簿上の管理は、麻酔医の自己申告に基づく。書類送検された麻酔医は2007年4月から同病院に勤務。鴻巣保健所(鴻巣市)は同年10月、同病院を立ち入り検査し、麻薬の保管状態や使用記録を調べたが、問題は見つからなかったという。
麻酔医が医療用麻薬を持ち出して自ら使った例は、宇都宮市や大阪府吹田市の医療機関でもあった。日本麻酔科学会では「医療用麻薬の管理体制に不備がある」とし、麻酔医だけでなく、看護師や薬剤師なども監視できるダブルチェックを推進しているという。
今回の事件では、医師が死亡するまで、行政や病院は実態を把握できなかった。麻酔医の自己申告で麻薬の使用量が管理される現行のシステムでは、この種の犯罪を未然に防ぐことは難しいと言える。
東大宮総合病院を立ち入り検査した鴻巣保健所の検査担当者は「(麻薬使用量を記した)書類だけで医師の不正を見抜くのは難しい」と話す。県警の捜査員も「患者にどれだけ麻薬を使ったかは、麻酔医しか分からない。高い信頼関係に基づく管理システムで、他は誰もチェックできない」と指摘する。
薬物依存の医師がほかにもいるとすれば、最も不利益を被るのは治療を受ける患者だ。「医師個人のモラル違反」では済まされない。医師や病院、行政が協力し、複数のチェックの目が入る仕組みを早急に構築すべきだろう。
難しいですねぇ。麻薬を自在に使える環境にいる人に邪まな考えがあった場合、それをチェックするにはダブルチェック・トリプルチェックするしかないですからね。
しかしまぁ、麻酔科の重労働をみれば、麻薬にすがりたくなる気持ちも分からんでもない・・・ってこんなこと口が裂けても言っちゃいけませんね。
しかし麻酔科医本人よりも、重大な問題として、麻酔を受ける患者さんに対することがあります。医師が患者さんに使う薬から少量抜いて使っているわけですから、手術を受けたあとの患者さんの術後疼痛が増えたりとか、そういう問題も懸念されるわけです。普通患者さんのことを考えたら、麻酔を減らして自分に使うなんて考えないと思うんですけどねぇ。。。医者の良心に期待したいところです。
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