慶応大学医学部の元准教授(53)=免疫学=が在任中の04年4月から1年間、出資法違反容疑で警視庁などの家宅捜索を受けた健康商品販売会社「エル・アンド・ジー(L&G)」から、自分の会社を受け皿に毎月100万円の振り込みを受け、計1200万円を受け取っていたことがわかった。04年から05年にかけて元准教授が理事を務める法人にもL&Gから計1億6千万円余が振り込まれていた。この期間に、少なくとも6500万円が同法人から元准教授名義や会社名義の銀行口座に移されていた。
元准教授は、1200万円については「不徳だった」と受領を認める一方で、法人を経由した資金移動については「(自分の関与は)絶対にあり得ない」と否定している。
元准教授が毎月100万円の資金の受け取りを始めた04年は、L&Gが高配当をうたった投資商品の扱いを本格化させ、会員からの苦情などが増え始めた時期と重なる。L&Gが家宅捜索を受けた昨年10月、元准教授は朝日新聞の取材に対し、L&Gが元准教授の名前や免疫について話す場面を勝手に使って健康関連商品の宣伝に利用していたと主張。「自分の研究が悪用されたとしたら許し難い」と関与を否定していた。
元准教授は大手化学メーカーで医薬品の企画・開発などに携わった後、01年11月、慶応大が学内外の専門家を年度ごとに任用する特別研究教員に採用され、04年4月に助教授に就任。その後、准教授と名称が変わったが、08年3月末に大学との契約は打ち切られた。
元准教授によると、L&Gとかかわりを持ったのは03年冬。研究テーマだった「自然免疫」にL&G側が関心を持ったことで付き合いが始まり、L&Gからの申し入れを受ける形で、04年4月から「研究費」として毎月100万円を受け取るようになったという。この金は自ら代表を務める医療コンサルタント会社に毎月振り込まれた。
関係者によると、こうした資金の受領が始まって以降、元准教授はL&G主催の講演会で自分の研究内容を話したり、会報誌に顔写真と「慶応大教授」の肩書とともに論文を寄せたりしていた。
1200万円とは別に、L&Gからは04年8月から05年10月にかけて、元准教授が理事だった法人に計4回総額1億3500万円、その他にも毎月210万円(計15回)の振り込みがあったことも判明。総額は1億6650万円に上る。
この法人は、営利目的でも公益目的でもない法人の設立について定める中間法人法に基づき、04年3月、医療系ベンチャーの支援を目的に設立された中間法人。元准教授や公認会計士らが参加していたが、徐々にL&Gからの資金提供が増え、関係者によると、この期間中の法人の収入の約96%をL&Gからの資金が占めていた。L&G側は健康商品の研究開発費や業務委託費として支払っていたという。
この法人に入った資金のうち計約6540万円は、04年8月から05年11月にかけて、元准教授の個人名義の口座と医療コンサル会社名義の口座に移されていた。関係者によると、いずれも元准教授に対する役員報酬や健康商品の研究開発費の名目だったという。
1200万円を除く一連の資金の流れについて元准教授は「自分は絶対に受け取っていない。(医療コンサル会社の)資金管理は法人の代表理事に任せていた。L&Gからいくらが支払われ、そこから私名義の口座にいくらが支払われたのか、私は把握していない」と話している。
これに対し、法人の代表理事は「元准教授がいたからこそ、L&Gは法人に資金提供した。L&Gも元准教授がいないと戦略的に困る部分があった。資金の管理や移動は元准教授の指示に従っていただけだ」と主張している。
L&G資金、医学部教授ら16人に計3477万
慶応大学医学部の元准教授(53)=免疫学=が健康商品販売会社「エル・アンド・ジー(L&G)」=警視庁などが出資法違反容疑で家宅捜索=から多額の資金を受け取っていた問題で、この元准教授が理事だった法人から04〜05年、11の大学や研究機関の教授ら16人の個人名義の口座に1人あたり最高500万円、総額3400万円超が振り込まれていたことがわかった。法人には同時期の収入の約96%を占める計1億6650万円がL&Gから振り込まれており、同社の資金が法人を経由して医学界に広く流れていたことになる。
教授らの多くは感染症研究や内科学が専門で、資金受領の「対価」などとしてそれぞれの分野の原稿を執筆。元准教授の説明では、原稿をまとめた書籍(2冊)の販売数の約3分の2はL&Gが買い占め、その売り上げは600万円だったという。題名は「自然免疫 Vol・1」「自然免疫 Vol・2」。いずれもL&Gの会報誌で元准教授の顔写真とともに紹介され、L&Gが製作したDVDにも取り上げられた。さらに、L&Gは当時、円天という疑似通貨で物品が購入できるとした「円天市場」で、書籍のタイトルと同じ「自然免疫」という名前を付けた複数の健康商品をPRしていた。
資金提供が明らかになったのは、慶応大医学部、京都大ウイルス研究所、大阪大医学部、旭川医科大などの教授や助教授ら(大学名・肩書のいずれも提供当時)。所属学会の理事を務める著名な教授も含めて、多くが慶応大の元准教授が事務局を務める自然免疫に関する研究会のメンバーで、元准教授が大手化学メーカーに在籍していた時からの付き合いだという。いずれも研究会の「企画運営」や「原稿料」として元准教授が理事だった医療系ベンチャーを支援する法人から振り込みを受けていた。
取材に対し、12人は資金受領をおおむね認めたが、全員が資金とL&Gの関係を「知らなかった」と答えた。4人は「分からない」「学問以外のことをお話しすることはない」などと話している。
朝日新聞の取材で判明したこうした資金の流れについて、L&G被害対策弁護団は「L&Gとの関係を仮に知らなかったとしても、道義的責任は免れない。金額の大きさに加え、書籍の大半がL&Gに買い取られている事実は、教授らがL&Gに利用されていた証しだ」と指摘している。
教授らが利用されていただけなのか、それとも利用されるフリをして金銭を得ようとしていたのか…。