「53歳の時に声帯を取りました」
首に当てた電動式人工喉頭からロボットのような声がした。和歌山市大谷、市民団体「たばこ問題を考える会・和歌山」代表世話人、畑中孝之さん(63)は一語一語かみしめるように続けた。「たばこの誘惑には乗らないでください」。同市立吹上小で7月10日にあった禁煙教室。6年生64人は水を打ったように静まり返った。
97年、喉頭がんが見つかった。放射線治療を受けたが、再発の恐れがあると声帯の摘出手術を勧められた。「手術せなんだら、どれくらい生きられますか」。医師は「10カ月」と答えた。15歳で鉄工所に就職して「大人への仲間入りだ」と吸い始め、それまでの20年ほどは1日約50本。何度も禁煙を試みたが、手術当日の朝まで吸い続けた。
喫煙者を非喫煙者と比べた場合、がん発症率が高くなるとされ、咽頭がんは32・5倍に上るという研究もある。禁煙の重要性を感じた畑中さんは03年5月、考える会に入会。県内外で講演し、04年10月から、「和歌山禁煙教育ボランティアの会」が小学校で行う出前授業にも加わった。
「ぼくは1本くらい吸おうと思っていたけど、絶対吸いません」「人前で話すのは嫌なのに、私たちのために話してくれてありがとう」。学校から受け取ったアンケートに涙し、勇気をもらった。
「お母さんにたばこをやめるようもうちょっと頑張ってみます」というメッセージもあった。講演後そばに寄ってきた子に、「家族で誰か吸うてんの」と声をかけたら、せきを切ったように泣き出したことも。
「たばこ吸うてなんだら、こんなんならんかったと後悔してる。一人でもたばこを吸わないでいてくれるよう願っています」
煙草ががんを引き起こすことなんぞ分かっている、しかしそれは確率論であって、その覚悟があるんだから別に今吸ってもいいだろうマジで
と、若者は思っているかもしれません。しかしもし本当に癌になったら、その時にそう思っていたことを後悔するでしょう。
癌による弊害というのは、命を失うことだけではありません。身体の機能を失うのです。命を失うよりマシだと本っ当に思いますか?
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