精神科の往診 患者らに朗報 県内でも開始 医につなぐ 統合失調症やうつなどで医療機関に行くことが困難な人々に対する医師の往診が、県内で始まっている。現在治療中や退院後の患者宅への訪問看護はあるが、
新規患者の家に医師が出向くことはまれ。他人を信用できず独りで苦しむ患者や、病気の自覚がない当事者にどう対応していいか分からず家族が悩むケースも多く、往診を受けて適切な診断や治療につながり、救われる人も出ている。
那覇市の50代男性が、兄に異変を感じたのは20年以上前。当時、東京で働いていた兄は、軽いうつ症状で沖縄に帰ってきた。次第に独り言が多くなり妄想で暴れる兄を見て、何かおかしいと感じていたが「病院に行こうと言うと、怒り出す。どうしていいか分からなかった」。
保健所に何度も相談し、兄が深刻な暴力行為に及ぶと、やむを得ず警察を呼んだ。だが
病気と診断する医師がいないため、場をいったんおさめるだけで、医療にはつながらない。昨年12月、医師が往診するクリニックを知り、兄の相談に駆け込んだ。
話を聞き、エステルクリニック(那覇市首里石嶺町)の玉城尚所長は2人が住む家を訪問。兄を統合失調症と診断し、週1度の往診を始めた。最初は警戒していた兄も、4カ月をすぎると自ら医師を招き入れ、自身の状態を話すようになった。
薬を飲むのはためらったため、往診で見守りを続けていたが、5月に暴力行為がエスカレート。駆けつけた玉城所長が兄に「病院に行ってみようか」と促すと素直に受け入れたという。
「今は入院し、落ち着いてきている」と玉城所長。男性も「やっと医療につながった。何かあれば先生と連絡が取れるようになり安心した」と話す。
同クリニックは2008年に開院し、
週2日の往診を実施。新規患者の場合はまず家族らと面談し、状況を把握して会いに行く。現在約25人、月に約50件の往診を行う玉城所長は「無理に病院に連れていくわけではなく、投薬治療しながら家で暮らす人も多い。必要な医療が提供されず、放置される状態も人権侵害ではないか」と指摘する。
だが往診にかける人的・時間的な余裕がないなどから、精神科での往診は進んでいない。県障害保健福祉課によると、県内の精神科施設は09年4月現在で50件だが、往診を掲げる施設は把握できていない。
04年、日本初の往診専門精神科クリニック「たかぎクリニック」(京都市)を開いた高木俊介院長は、
約100人の統合失調症患者宅を回り、地域医療を支えている。全国でも訪問支援が進まない状況に、高木院長は「往診は手間がかかるとか、医療側から患者に接するのはよくないといわれる。だが私は生活できているし、患者や家族の生活の場で起こることに対応しながら、信頼や安心が生まれる」と意識改革の必要性を訴える。
玉城所長は「地域で困っている方は多いはず。連絡してほしい」と話した。エステルクリニックは電話098(979)5905。
偉すぎる。精神科開業医の鑑です。
こういう精神科の往診制度がすすまないのは何でなんでしょうかね。やはり保険的に難しいとか、あるのでしょうか。国がこういう制度を保障してくれれば成り立つ医療もあると思うのですけどね。
開業医の先生方が、積極的に往診に出てくれるような医療制度になりはしないでしょうか。
内科の開業の先生で、「何故自分が勤務医ではなく開業したか」という、開業の醍醐味の最たるものとして、自身の生活の質ではなく、往診ができるから、という点を挙げて先生がおります。その姿勢は素晴らしいものだなと思うわけです。古来からの、医師としてのあり方の1つでありながらも、現代で失われつつある「往診」。その往診医療を支えるのは開業医の先生の気持ちと努力次第なのではないかなと思います。