血圧は低ければ低いほどよいと思っていませんか? 低血圧が原因でめまい、立ちくらみ、吐き気、だるさなどの症状が現れることもあります。自律神経失調症やうつ病などと間違えられることもあるので、注意が必要です。
血圧が高いと「高血圧」と言われ、たとえ症状が出なくても動脈硬化の危険因子となり、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めることはよく知られています。一方、「低血圧」は、せいぜい「寝起きが悪い」などと言われても、とりたてて病気とは見なされないことが多いものです。しかし、時に低血圧によって、めまい、立ちくらみ、吐き気、倦怠感、頭痛、肩こり、不眠、食欲不振など、さまざまな症状が出てくることがあります。
低血圧に詳しい東邦大学医学部の中野弘一教授(卒後臨床研修/生涯教育センター長)はこう話します。
「一般に、上の血圧(収縮期血圧)が100mmHg未満を低血圧といいますが、数値が低いだけでは病気とはいえません。低血圧が原因で毎日のようにめまいや吐き気などがあって、社会生活を送るうえで不自由さを感じるときに病気と見なされます。つまり、低血圧は症状で困っていることが病気の条件なのです」
低血圧には、何らかの病気が原因で起こる「症候性低血圧」、原因がよくわからない「本態性低血圧」があります。特に問題なのが後者。原因となる病気を見つけて治療すれば改善する症候性低血圧とは異なり、本態性低血圧は診断からして難しいのだそうです。
「低血圧によるさまざまな症状は、自律神経失調症、軽いうつ病、不安障害などでも見られます。本態性低血圧と診断するためには、これらの似た症状を訴える他の病気ではないという鑑別診断が必要です。実際は他の病気と重なっていることも多いですし、逆に低血圧が見落とされるケースもあります。自律神経失調症やうつ病などと診断されて精神安定薬などを投薬され、全然よくならないと悩んでいる人も少なくないのです」(中野教授)
もともと低血圧の人では、立ち上がるなどしたとき、あるコンディションで急に血圧が下がり、立ちくらみなどを起こす「起立性低血圧」になりやすいものです。原因は、「心臓のポンプの働きが弱いのではなく、血圧を調節している脳の視床下部にある血圧調節中枢の応答が悪いこと」と中野教授。
人は急に立ち上がると血液が足にたまります。通常は、血圧調節中枢の指令を受けた交感神経を介して心拍数を増やしたり、足の末梢静脈を収縮させたりして、足にたまった血液を押し上げ、脳が血液不足にならないようにします。しかし、調節中枢からの指令が遅れると、足に血液がたまったままで脳の血液量が減ってしまいます。その結果、脳の血液が不足して立ちくらみやめまい、失神などを起こしてしまうのです。つまり、起立性低血圧は、血圧調節中枢の応答が悪いことが主要な原因と考えられているのです。
起立性低血圧はこれまで小児や思春期の子供の病気と考えられてきましたが、最近は高齢者にも多いことがわかってきました。起こりやすいのは食後。食事をすると血液が胃に集まり、脳の血液が不足してクラクラしてしまうのだそうです。
「高齢者では、転倒して骨折し、寝たきりの原因になったりします。クラクラしたら頭を下げて、心臓の位置にすると脳への血流が回復します。また、食べると気持ちが悪くなって食欲がなくなり、栄養不足で衰弱する原因になることも問題です。食後低血圧に対処するためには、食後にコーヒーやお茶を飲むとよいでしょう。これらに含まれるカフェインには血管を収縮させる作用があり、血圧を上げるのに役立ちます」(中野教授)
実は、中野教授自身も低血圧。そのこともあって、低血圧の対処法をいろいろと研究してきました。いちばん効果的なのは運動だそうです。「低血圧の原因は血圧調節中枢の応答の悪さ。その状態を改善する薬はありません。血管収縮薬が使われることもありますが、効き過ぎてしまうのが問題です。運動は交感神経と副交感神経のチャンネルの切り替えを早くするのに役立つのです」
中野教授が勧めるのは、心拍が少し上がる程度の運動で、ジョギング、自転車こぎ、エアロビクス・エクササイズ、水中ウオーキングなど。ただし、もともと低血圧の人は血の巡りの調節がうまくいかないので、運動前にはウオーミングアップ、運動後はクールダウンを充分に行うことが大切だと強調します。運動が苦手でも、徐々に、できる範囲で負荷を普通の人並みにするぐらいの気持ちで、運動と言えないような運動からはじめましょう。水中ウオ−キングは低血圧の人には一番いいそうです。
低血圧ってなかなか他の人に理解されづらいですよね。寝起きが悪いとかそういうイメージしかなさそう。でも記事にあるとおり、症状が出て辛い人もいるのです。
運動が効くんですね。無理しない程度の運動を習慣づけることで改善するようですので、是非生活の中に組み込んでみて下さい。